2015/08/10

海外のポスドク先を見つけるには?

【ポスドクになる準備】
日頃から世界中の研究者とネットワークを築いておくと、ポスドクとしての雇用はもちろん、教員ポストの紹介・推薦をしてもらえることもあります。

・国際会議
全ての自分の発表が面接だと思って、聴衆を魅了してください。また、自分のポスター発表の時や先方の招待講演の後は、積極的に絡んでいくのが良いかと思います。自分のポスターを遠くから見ている方に"How are you?"と声をかけるのもいいです。著名な研究者には、相手にも有意義な時間になるように、且つしっかりと名前を覚えてもらうためにも、自分の論文を持っていったり、事前に先方の論文を読んで鋭い質問をしたりしましょう。

・セミナー
セミナー先として最も楽なのは友人の研究室ですが、、ボスに紹介してもらう方法もあります。雇用依頼と違い、セミナー依頼は面識がなくてもメールをしてみるのもありです。連絡相手は、相手が分野の権威であろうが、多忙な方であろうが、助教であろうがOKです。先方が興味がなければ返信がこないだけなので、どんどん連絡しましょう。どういうトピックが話せるかを示すために、論文も添付しておくと話が通りやすいと思います。facebookやlinked inなどを利用してkeep in touchします。近くで会議などがあった際は、必ず連絡を取って意見交換します。世界に名前を売るチャンスです。仲良くなると、近くに寄った際に相手も訪問してくれます。

・共同研究
学会や論文で相手の仕事に興味があれば、仲良くなくても共同研究提案OKです。お互いWinWinになるようなアイデアを出して、スライドを作成します。多くても5ページ以内で(文字だらけはタブー)まとめます。背景、期待される成果、自分の役割、相手への依頼を提案し、連絡はメールでOKです。その後に学会で会うのが良いですが、Skypeを使うのもいいでしょう。国際会議や研究室訪問して話し合い、仲良くなると研究が益々楽しくなります。


【行きたい研究室のポスドクになるには?】
海外でポスドク先を探す際、二つ返事で受け入れてくれるのは、fellowshipをとってきたときです。基本的にどこでもwelcomeです。Fellowshipは、JSPSだけでなく、NSFEinsteinMarie curie大学独自のものなど沢山あるので、トライしてみてください。

世界のポスドク・フェローシップ

行きたい場所に行くもう一つの方法は、Closedネットワークに入っている場合です。公募に出ていなくても、大きなラボでは優秀な人材をいつでも雇えるくらい潤沢な資金があり、著名な教授たちの間だけで紹介しあっています。
  1. 指導教員や共同研究先の人でツテがないか聞いてみます。研究の世界は信頼関係で成り立っています。信頼ある人の推薦があれば通りやすいです。普段のネットワーキングが効いてくるので、学会前にPitch talkの練習をしておくといいかもしれません。
  2. ツテがなければ、行きたい研究室にCVを添付して、本気のメールを数週間おきに何回か送ってみます。自分の論文を添付するのもいいです。スマホでメールチェックしている教員も多く、HTML形式で送ると見る側はdownloadしなくていいので目を通しやすいです。skypeや直接研究室訪問する機会をもらえるかも聞いてみましょう。面談で聞かれる質問は、教員面接と似ていると言われています。
雇う側のことも意識すると精神衛生にいいかもしれません。著名な教授は多忙なのでCVを送っても大抵は無視されます。これは一部の面倒な学生のせいの可能性(断りの返信をしたときに、私が外国人だからダメなのかとかいちゃもんつけてきたりして返信すらしたくなくなっている場合)もありますが、ラボの学生に対してでさえ返信がない時もあります。彼らにはメールが1日300通来ます。本当に埋もれていることもあるので、1度で諦めないで。

欧米の大学教員の面接で聞かれる質問集:MITポスドクの就職活動記録


【とにかくポスドクになる!】
公募に出して、海外の研究室に直接雇用してもらう方法があります。ポスドクの公募は、natureやscienceなどの一般誌や、国際会議で掲示されています。海外機関に所属していれば、部署のメーリングリストで連絡が回ってきます。公募は年中ありますが、特に卒業シーズンかつ多くのグラント期限に当たる、6~8月に多いです。プロジェクトに対する即戦力が求められるので、英語力よりも専門性のマッチングが重要視されます。雇用期間はグラント次第です。

大型プロジェクトや新テニュア採用の直前にも募集があります。前者の場合は、ボスが世界的に有名な教授であり、大きな業績・比較的安定した雇用が確保できる分、採用時の競争が激しいです(natureの筆頭論文や、国際的に名の知れたボスの推薦書を持っているかどうかがキーポイント)。後者の場合は、ボスが30歳前半の若手助教であり、研究室の立ち上げに着手したり、課題も挑戦的なことが多く、短期間に業績を上げるのは難しいかもしれません。しかし、ポスドクとして雇ってもらいやすく、かつ年齢も近いので将来の共同研究パートナーになりえます。欧米ではテニュアに対するサポートが手厚いので、後者でも研究費は問題ないです。最初は、後者に雇ってもらい、3年程度で前者に移動するのも選択の一つです。

採用側も優秀な人材を確保したがっています。企業就職同様、CVが重要です。工学系では技術的なスキルも見られますが、主に筆頭著者の論文が参考にされます。第二著者以降ではどの程度のスキルと知識があるか不明なためです。海外ポスドクに応募するなら、量ではなく、論文の質に力をいれましょう。高い被引用件数のある筆頭論文を持っていると心強いです。採用されるには常に熱意と自己アピールが大事です!謙虚にならずに、自分にできることは全て話しましょう。


【ポスドクの間にしておくことは?】
PIになる準備としてポスドクになるのか、実験がしたくて長期間ポスドクになるのかは別です。ポスドクは短期雇用かつ競争の激しい職です。3回目以降のポスドク契約は海外ではネガティブに捉えられることがあり、ポスドクの再契約自体もそう簡単ではありません。学生は研究者として学んでいる最中であり、ポスドクは教育を既に受けた人、PIは学生を教育する人・ポスドクを雇ってラボを運営する人です。この違いを認識しておくだけでだいぶ意識が変わります。

ポスドクになると、研究の幅を広げるために勉強することももちろん大事ですが、結果を出すことをより求められます。効率的に実験を進め、論文をたくさん書く能力が必要になります。その後、ポスドクを2~3回することができても、それ以上ポスドクを続けていくことは簡単ではありません。PI側からすると、ポスドク期間の長い人は人件費が高いので、なるべく若いポスドクと契約します。長期間ポスドクを続けるためには、業績を稼ぐだけでなく、その研究のプロになる必要があります。〇〇という研究をするなら、彼に頼むしかないというスペシャリスト的な存在になれば強いです。大学によってはテクニシャンやサイエンティストとして雇用される場合もあるでしょう。その技術が非常に高ければ、高い給料(1000万円以上)で長期間(定年まで)雇ってもらえることもあります。

PIは研究室を運営しないといけません。お金の確保、チームの雰囲気づくり(コミュニケーション・人間性)など、求められるものが変わってきます。ポスドクの間に研究費の応募や学生のmentor、外部への共同研究提案、TAなどを積極的に行い、ラボ運営の準備をしておく必要があります。ただ実験だけしているだけでは、PI就職には繋がりにくいです。また、PIになれても、テニュアを取るには「ボスと違うアイデアで」「採用後3年以内に」「研究分野に影響力を与える」ことが求められます。ポスドクの間にアイデアを考え、新分野開拓の種になるような挑戦的な研究に取り組みつつ、学会などでネットワークを広げておくといいでしょう。

米国MITの風土(石井裕)

将来PIを目指す場合は、ビッグラボでポスドクすることをお勧めします。まず、人脈が広がります。卒業生の多くが、他大学でPIになっている場合が多く、ネットワークが広がるし、PIになるときのアドバイスやノウハウを沢山聞けます。


【さいごに】
国際会議やサマースクール、セミナーを介して、若いうちに海外の研究室の友人ができることは、とても良い財産になります。普段から積極的にセミナーを行い、共同研究などを通じて仲良くなったら、相手の教授からポスドクとして雇ってもらう機会になるかもしれません。テニュア申請時の推薦書も書いてもらえるかもしれません。普段からセミナーなどを通じて接しておけば、自分でポスドクの雇用先を確保できるかもしれません。


ポスドクになる方に伝えておきたいことがあります。海外のポスドクや日本の助教は非常に競争の激しい任期制の職です。誰しもが任期が近づくと焦りが生じます。しかし、

研究環境の良い就職先を見つけるには、研究成果が大事ですが、
確実に就職先を見つけるには、人間関係の構築が最重要です。

任期満了日が近づいていても、ボスや学会で知り合った教授や企業の知り合いから信頼が得られていれば、就職先に困ることはありません。頼み込めば紹介してくれたり、枠を作ってくれます。例え「職を得るのに毎年論文1本書くことが必須なのに去年書いていない」としても、推薦書の効力で打ち消されることもあります。