2015/10/29

人を推薦するにあたって

【推薦をする】
人を推薦するには、信頼関係がとても大事です。日本では、「良い推薦書をくれる=学生にとって良いボス」であり、研究で良い点を挙げれない時は、エピソードを交えて研究以外のことを褒めたりしたくなるかもしれません。しかし、「日本人は推薦書の書き方を知らない」と言われます。

海外では、強く推薦できる人にしか推薦書を書きません。無理にでも書く際には、事前に確認します。「Positiveな推薦書は書けないけど、それでもいいかい?」と。無理にでもいいところを探してpositiveな推薦書を書いてしまうと、推薦書を書いた人自身が信頼を失ってしまうからです。やたらめったら褒めていると、本当に優秀な学生が海外に行きてくても、採用されなくなってしまいます。それだけ推薦書は重要です。普段からしっかりと学生を見て、海外の先生から学生の評価を聞かれたときは、おべっかを使わずに本音を言いましょう。大事なのは、数値で表すことです。その方が信頼できますからね。


【推薦書の構成の一例】
・1段落目
ZのポストにA君を推薦する、と述べる。
A君と推薦者との関係(修士の2年間を指導したとか)
A君の順位付け(これまで指導した学生50人の中で5番目に優秀とか)

・2段落目
A君がラボでどのような仕事をしたか(どの論文に出版されたか)
その仕事の今後の展開や、その重要性について(分野外の人に伝わるように)
その論文の中で、A君がどのような役割を果たしたか(サポートか、メインか)
その仕事を通じて、Zのポストでどのように貢献できるか

・3段落目
A君の卓越している点(発想力、分析力、解析力、計画性など)
A君の人間性(リーダーシップ、社交性、ボランティア、アウトリーチなど)
上記の点でA君は大変素晴らしく、Zのポストに適合するため強く推薦する、と述べる。

推薦書の書き方のより詳しい内容は下記サイトを参考にして下さい。
 西洋アカデミアを理解するために
 私が書く米欧の大学院向けの推薦状について
 推薦状の書き方・頼み方
    Writing a letter of recommendation (pdf)


【海外から評価を得る】
学生がアカデミックポジションに応募するとき、推薦書の効果が強く発揮されるのは、その推薦者が評価されている時です。推薦者が評価を得るにはどうしたらいいのでしょうか?海外の研究者は、研究成果に対してかなりシビアに見ています。良い結果を出しても考察が不十分だったり、分かっていないと思われると相手にされません。

ある教授は、「この論文は信頼できない。直接本人に聞いてみたけど、詳細な物理は調べていないし、サンプルを渡しもしない」と言ってました。論文で議論が白熱した際、「この教授はコネでなったのかい?」と聞かれたこともあります。ある欧州の研究者も、素晴らしい成果を出したのに周囲に疑われ、相手にされなかったことがあるそうです。彼女は憤慨して、あちこちにサンプルをバラまいたところ、その成果が本当だと分かって、一気に人が集まってきたとのことです。その物理的な箇所が、自分の専門外であったり、高額装置が必要で調べられないなら、トップデータでもサンプルを渡すことを、念頭に入れておいた方がいいです。

良い仕事をしていると、自然と周りから人が集まってきます。怪しいデータ・考察を並べていると、人が遠ざかっていきます。指導者は、常に質の高い論文執筆を心掛けるべきです。博士の学位を取った後は、教授であろうがポスドクであろうが一人前の研究者に変わりはありません。是非、教授という身分を持つだけのヘナチョコ博士ではなく、国際会議で高く評価されているエリート博士を目指しましょう。


【推薦をされた】
海外で良い推薦書を書いてもらったのなら、胸を張っていいです。推薦してもらったら感謝しつつ、推薦者の顔に泥を塗らないように、しっかりと励みましょう。指導教官に推薦書を頼んだ時は、ちゃんとお礼を言うようにしてください。まともな指導教官であれば、推薦書執筆に相当な時間と気力を使っているはずですから。


【紹介をするかどうか】
ポスドクや助教になると、アカデミックのネットワークが広がり、いろんな人から有名教授への紹介依頼が来ます。推薦ではないので気軽に承諾してしまいがちですが、信頼できそうな人かどうかはちゃんと確認したほうがいいです。個人的な見解ですが、紹介をするかどうかを3つの段階で線引きしています。

1.直接面識がない人
 論文を読んで、SNSを見て、学会で会って知り合った人。基本的にお断りしています。自分で直接その教授に連絡を取るように頼んでいます。よくアジアの学生に紹介を依頼されます。全く知らないアジア教授に学会に招待されることもあります。不思議です。アジア文化では紹介し合うのかもしれませんが、欧米では要検討です。優しさで紹介すると、後であなたの信頼も失いかねます。

2.メディア関係、知らない教授や企業の管理職
 一番ネックなのがココです。ポジションとして信頼はできるが、その人は知らない場合です。話の内容と相手次第ではないでしょうか。人事関係や共同研究依頼、大学の政治関係であれば、直接連絡してもらった方がいいかと思います。間を持つにしても、メールをボスに転送するだけでいいかと思います。丁寧に紹介したメールは、忙しいボスもじっくり読んでしまうので、時間を使わせてしまうことを念頭に入れておいたほうが良いでしょう。
 親族で例えると、ボスと2親等の関係までは丁寧に紹介しています。そうでない場合は、直接ボスに連絡してもらっています。以前、親しい友人が「学生を派遣したいから、私のボスを紹介してほしい」と言ってきたことがあります。ボスからするとその学生は3親等になるので一旦お断りし、まずその友人だけを学会で直接ボスに紹介することにしました。友人が信頼を得られれば、学生の派遣も可能になると思います。殆ど話したことがない日本の教授から、友人を経て、自分のボスに学生の海外派遣について頼まれると、紹介する側は困惑してしまいます。その教授を知らないからです。もしあなたがその教授なら、海外で活躍する学生やポスドクの信頼を失わせてしまうことを念頭に入れておいてください。まずは、あなたが信頼を得てください。

3.親しい友人、研究室仲間、共同研究者 
 一度一緒に仕事をして、ある程度信頼できる方なら喜んで紹介します。優秀であれば推薦もします。全く信頼できない友人の場合、はぐらかしています。