2016/07/01

日本と海外の科学研究費

【日本の科研費】
日本の科学研究費は大きく分けて、以下の4つに分類できます。

①校費(年間数十万円)
大学からは、大学の運営交付金からなる校費が支給されます。校費の長所は用途が幅広いことです。下記の研究費は、どれも直接研究に関わることにしか使えませんが、校費は研究だけでなく事務用品(机とか椅子とか)や教育に必要なものにも使えます。また、3月31日まで使えたり、同僚と受け渡しできるメリットがあります。
②外部の助成金(年間100万円程度が多い)
三菱財団、トヨタ財団、キャノン財団など、様々な財団による外部資金があり、JSPSよりも採択されにくいですが、一緒に応募できます。必ず応募要項をよく読んで何が求められているかを把握し、自分の研究が十分に貢献できることを申請書にアピールしましょう。笹川財団のように、学生でも応募できるものがあります住友財団のように海外から応募できるものや、村田財団のように幅広い分野のものや、小笠原財団のように年度を跨げるもの、カシオ財団のように研究室のインフラ整備に使えるものなどもあります。他にも、学術系クラウドファウンディングなどがあります。
③JSPS(年間100万円~1000万円程度)
日本の研究者にとってベースの研究費になります。毎年10月頃に応募があり、次の4月に結果がわかります(4月1日にe-radで「交付内定された研究課題」で「所属研究機関処理中」となっていれば内定)。JSPSでは、提案内容は基本的に自由ですが、ボトムアップ型で、壮大で挑戦的な課題よりも、これまでの業績に沿った実現可能な課題の方が好まれます
④JSTやNEDOなど(年間1000万円以上)
JSTは、戦略的な研究費でトップダウン型になります。世界トップレベルの研究を行うため、特定の分野(流行りのテーマ)に莫大な予算が投入されます。JSPSで自分の興味のある研究を行い、地盤を固めておいて、時代の流れが自分の分野に傾いてきたときにトライする感じです。NEDOは産学連携を目指した、実用的な研究が多いです。進捗次第では途中で打ち切られます。どちらもトップクラスの成果を上げていないと30歳前後では獲得するのが難しいかもしれません。定期的な推進委員会や報告会、ステージゲート(途中打ち切り)が設けられているものもあります。

・独立するにはどうしたらいい?
助教になりたての頃は、JSPSや校費、外部の助成金を合わせても年間200万円に満たないと思います。これでは消耗品や旅費で使い切ってしまい、実験装置は何も買えません。そこで、全国の共用装置を利用するのが一つです。年間50万円もあれば、各分野の最先端装置をフルに利用できます。学生3名程度であれば、助教でも十分に研究室を運営できます。

ナノテクプラットフォーム

他の方法としては、アイデアで勝負することです。George Whitesides氏の紙を使った流体チップや、Andre Geim氏のセロハンテープと鉛筆を使ったグラフェンの発見のように、アイデア次第ではnatureクラスの研究が数万円でできます。他の方法は、中古装置を購入したり、知り合いの先生達から部品をかき集めて自作することです。数千万円する超高真空装置も今や使える人が減っており、無料でもらえる場合があるそうです。トランジスタ技術といった雑誌や、英語で"homemade (DIY) XXX(装置名)"でweb検索すると、参考になる作り方が見つかるかもしれません。

普段の研究活動でネットワークを築いている方は、上記以外でも研究費を確保することが可能です。新学術(JSPS)やCREST(JST)のような大規模研究のメンバに入れてもらうのも一つ、公募されている助成金とは別に企業と共同研究するのも一つです。起業すれば、その一部を研究費に回すこともできます。年500万円以上の予算が手に入れば実験装置を買えるし、国内外含めた共同研究を通じてインパクトの高い研究もできるはずです。

・科研費の書き方
具体的なノウハウは書きませんが、最低限すべきことは、まず題目と見やすさ。図表や行間、大きい字(11pt)で太字や下線など使った読みやすい文章を、スムースな流れで書くのがいいです。理由は、たとえ近い分野細目を選択していても審査員の分野が近いとは限らないから。審査員側からすると、書類一つ当たりを数分で読んで評価までしないといけない場合もあり、分野外や学会で見たことのないテーマの場合、どうしても業績や文章の見やすさに重点が置かれてしまいます。だって人間だもの。

同分野の専門家に詳しく伝えるスタイルよりも、まずは、パッと見て分かるようにポンチ絵などを利用して、異分野の人にどんな研究内容かを伝える書き方を心がけましょう。そして内容が伝わった後に、その研究の面白さや厳密な研究計画が評価の重要項目になります。逆はあり得ません。研究課題は、2~3年後の将来的なことよりも、既に結果が出て論文執筆直前くらいの内容で書くと、研究計画の信頼性が高くなるので評価されやすいようです。科研費執筆に使えるWORDの機能はココです。


【海外の科研費】
・どういう仕組み?
アメリカの大学は、主にNSF(自然科学)、DoE(エネルギ)、DoD(軍)やNIH(生命)の資金で研究します。応募は年に数回あり、いつでも出せます。金額は数千万円と、日本よりも一桁大きいです。軍関連の研究費は軍に貢献する研究が推奨されますが、軍の役に立たなくてもOKです。ドクター持ちの研究者が軍の研究部門のトップに立ち、今後数年間の研究方針を決めます。彼らは研究の事を良く理解しているので、的確な場所に予算が振り分けられます。日本と異なり、一度申請が通るとそこから大きく外れたことにはお金は使えませんし、進捗が芳しくないと途中で打ち切りもありえます。

国によりますが、研究費は博士号を持っていれば出せます。ただ、グリーンカードのないポスドクの場合、ボスの名前で提出させてもらう必要があります(実績になりません)。出し方は大学の事務に聞くと良いでしょう。1000万円程度の研究費でも数十ページの書類が必要です。一般助成や海外企業からも予算をとれます。こちらの申請書は10ページ程度で良かったりします。アメリカの研究費は、一部例外を除いて日本の所属機関からは申請できません。欧州では、国内の予算に加えてEU圏の予算があります。億単位の莫大な研究費です。

Search for funding
・どういうふうに使われている?
欧米の研究費の多くは人件費に使われており、且つそれと同程度の大学の事務経費が必要になります。つまり、1千万円取ってきても、半分しか研究費に回せず(500万円が事務経費)、学生一人を2年間(修士)雇うのがやっとです。学生の雇用には年間一人300万円以上、ポスドクの雇用には年間一人600万円以上かかるため、日本の研究室のように10人程度のグループを構成するには、給与や福利厚生などを含めて年間1億円近い研究費を取ってこなくてはなりません。欧米の研究費の適応範囲は広く、保険代や出張費、夏休みの間の給与などに当てられます。出張費の利用も日本ほど厳しくありません。国際会議に参加後そのまま数週間旅行・観光しても、学会中の旅費と宿泊費は支給されます。

欧米では、実験装置をうまく共同利用しています。共同利用のメリットとしては、新任教員でも高額装置を買わずに研究が進められる、装置一つ辺りのコスパが上がる(使用しない時間が減る)、類似装置を同大学で持たなくて良いのでスペースをとれる、といったことがあげられます。大学全体を見た時に、実験装置に対する研究費の使用を低く抑えられ、人件費に回すことができるため、装置の保守管理用スタッフをより多く雇うことができます。日本では助教や准教授の先生が装置の修理をしなくてはいけませんが、欧米ではスタッフがやるので、教員の負担が大幅に低減されます。共同利用のデメリットとしては、研究室間の負担額の配分が難しい、使用時間が限られる、研究室独自の方法で使えないことです。

・米国の科研費の書き方
まずは自分のアイデアに沿った適切な科研費を探します。出したい科研費を見つけたら、締め切りを確認して大学に連絡します。科研費は大学に振り込まれるため、色んな人のサインが必要になります。投稿の締め切りよりも2週間前くらいに完成させなくてはいけません。若手研究員は、科研費を執筆する前にmentorを見つけるといいです。(断られるかも・・・)と恐れる必要はありません。友達のような感覚で受けてくれるはずです。何をしたらいいかアドバイスをくれたり、執筆した文書を修正してくれます。良いmentorに出会うことも大事です。なるべくfunding経験が多い方を選びましょう。また、ポスドクやPI向けに、大学がグラントの書き方講座を定期的に開いています。

いい応募書を書くにはいい研究をしていることが大前提となります。審査は3人3段階で行われます。適切な場所に適切な内容を書くことが必須です。たくさん執筆練習しましょう。設備も重要です。研究を進めるのに必要な装置がない場合は、共同研究者がいると研究計画の信頼性が上がります。それでもrejectされるのは、知識不足、不確かな将来計画、不明瞭な論理、無謀な実行計画が要因となります。基本的に日本と同じですね。違うのは、新しい審査委員を要求できることでしょうか。

NIHやNSFの応募書類は15ページ以上(結果的に50ページ以上になるかも?)です。1ページ目(題名、要旨、研究費、所属など)、2ページ目(Specific aim, Innovation)、3~14ページ目(Significance and background 10%, Preliminary data and progress report 30%, Experimental design 60%)、15ページ目(参考文献、共同研究、動物や人権など)。フォントはTimes roman, Ariel, Palatioで(Courierは×)。Specific aimが最重要です。フォントサイズは11pt以上。強調したい場所は斜体太字を使います。段落の間は一行空けます。文章の書き方は論文と同じなので、コチラを参考に。某企業の助成金の申請書(20ページ)でも、全ての仕事を止めて丸々5日かかりました。いい仕上がりにするためにも、最低1カ月以上前から着手した方がいいです。

グラントの書き方:Ryohei’s neuroscience notesグラント申請NIH
NIHグラントとは:研究留学ガイドUB2

題名:制限文字内でキーワードは必ず入れる。nano abstractになるように!
要旨:正しく、簡潔に。キーワード、長期的な視点での重要性を入れる。挑発的な表現は避ける。