2016/06/30

IFの高い論文と質の高い論文

【IFの高い論文に載せるには?】

アジアの大学に就職する際には、高い文献引用影響率(IF)論文の筆頭著者が大きな評価対象になります。そのため、日本を含むアジアの研究者による、再現性の取れない胡散臭い論文が大量に出回っています。最近では、各分野の評価を客観的に行うため、top10%補正論文が評価基準になることもあるようです(サイト「web of science」→上のタブ「Essential Science indicator」→中間タブ「Field Baseline」→「Percentiles」をクリックすると見れる)。物理系であれば、年5回程度引用され続けていれば、top10%に入るようです。

Natureは、自分達の雑誌がキャリアに大きな影響を与えるようになってからは、再現性との戦いだそうです。特に生命系の再現実験には数年かかるため、嘘のデータを暴くのに時間がかかり、分かった頃には論文投稿者が重要職に就いており、問題が大きくなりがちです。Natureは、大学側に「雑誌やIFではなく、人を見て採用しろ」と要望しています。キャリアが大事なのも分かりますが、若手研究者もなんのために研究しているんでしょうか?

特に高いIF論文として、CNS(Cell、Nature、Science)が挙げられます。Natureは「"科学"を第一に重要視している。結果的にIFが高くなっているのは誇らしいが、IFは最重要視はしていない。Nature誌に採択された中にもIFが低いものがあるが、それらは科学的に素晴らしいんだ」として高く評価しています。つまり、インパクトが小さくても科学的に面白い論文なら、ちゃんと採択されるということです。とはいうものの、CNSで出版されているものはインパクトの高い論文が多く、分野横断しているもの(Interdisciplinary)とlong termのものが好まれます。そのために現れる問題点について、参考する上で気を付けておくことがあります。

(i)データのねつ造
CNSに載せるには、アイデアが大変重要です。画期的なアイデアで、その通りの結果が出れば掲載されます。5人の査読者により厳しく審査されますが、データ自体が捏造されていると査読者でも気づけないことがあります。分野横断型の研究などでは、アイデアに合わせた結果をプロットしていても、査読者が審査しきれないかもしれません。編集者は世界中の研究者の中から、なるべく広い見識のある人が推薦で決まります。それでも嘘のデータが載った論文が通過してしまうのが現状です。特に、Scientific reportは、信頼性(質)の低い論文が非常に多いです。

2014年の10大論文撤回
査読の抱える問題とその対応策

(ii)多数の学生の犠牲
一般的に、CNS論文は1年やそこらで載せられるものではありません。同じ研究室から毎年3件CNS論文が出ていても、博士学生とポスドクの合計が20人いれば、論文掲載(卒業)まで一人あたり平均7年かかっていることになります。それでも研究室全ての論文数が毎年20件くらいあればいいですが、5件ほどしかない場合、多数の学生が何年も論文を出せずに苦労していると言えます。同じ学生ばかりが載せている場合は本当に悲惨な状態です。

(i)と(ii)を踏まえた上で研究室を探していると、僅かですが、本当に神のような研究者がいます。そこの研究室に行くか、教員や学生にいろいろ質問してみると、何かCNSに載せるコツが掴めるかもしれません。知るところでは、CNSに載せている研究室では、教員が常に最新情報をキャッチしており、学生やポスドクはその情報を元に自分自身でアイデアをじっくり考えています。何日も何週間も考えて議論して、長期的な計画で実験している場合が多いです。結果的に、(ii)のようなスタイルになってしまうのかもしれませんが、良い研究室はちゃんと学術的な論文もコンスタントに出しています。Natureに投稿される論文数は週に10報で、そのうち編集者rejectが65%で、査読者rejectが28%、採択が7%らしいです。

【質の高い論文を書くには?】

米国では、推薦書筆頭論文の質が重要になります。IFが高いからと言って、論文の質が高いとは言えません。これまでの発表論文の中からランダムに抽出され、その質が低いと、面接に呼ばれません(大学によっては、自分で5報選択できる)。たとえIFが1程度の論文であっても、投稿する際は非常に気を使ってください。

工学系の論文にありがちですが、実験方法と結果(トップデータ)のみが書かれた論文。これは単にインパクトが高くて掲載された論文であって、質の高い論文とは言えません。企業では特許が絡んでくるので、こういった論文になるのは致し方ありません。しかし、アカデミック職では喜ばれません。質の高い論文とは一体なんでしょうか?突っ込みどころのない、教科書のような論文です。何年経っても引用され続ける論文です。残る論文です。

瞬間的に高い被引用件数は単に流行にマッチした可能性がありますが、長く引用され続けている論文は質の高い論文が多いです。では、被引用件数を上げるにはどうしたらいいのでしょうか?まず多くの人に読んでもらわないといけません。興味深く挑戦的なテーマの前に、しっかりとした文章を書く力が不可欠です。よく日本人執筆者は英語力が問題と指摘されます。英語力と言っても様々です。英語論文の執筆能力を以下の3段階に分けます。

(a)正しい文法:問題があると誰も読まない
英語の文法は、外部に委託すれば添削してもらえます。科学論文はそこからさらに、シンプルかつ丁寧な説明が求められます。米国に留学すると分かりますが、彼らは何度も何度も議論と校正を繰り返します。英語が母国語であるにもかかわらず、いろいろと言い回しを変えて、何度も同じ場所を書き直します(日本語で科研費を書くのと状況が似ています)。

マンチェスター大の英語論文フレーズ集
パデュー大の英語論文フレーズ集

論文を書く際には、常に読者が読みやすいように書くことを意識します。各段落では言いたいことを一つに絞ります。一つの文が長くなる場合は二文に分けましょう。単語を連ねた形容詞、弱い表現"If""try""hope""make""give"、受動態はなるべく避けます(最後にまとめておきます)。読者が誤解を生じないように懇切丁寧に説明する必要があります。一方で、一単語でも短くなるような文章作成を心がけましょう。具体的、簡潔、断定的に!

例: We made the measurement of lower spinal cord resion effects
 -> We measured effects of lesions in the lower spinal cord.
お勧めの本: The Craft of Scientific Writing
お勧めのサイト: Making the Right Moves (Chapter 10)

米国の研究者は、論文を書く際に、一文一文に気をつけます。この文章は必要か、前文との繋がりはスムーズか、説明は足りているか、などを単語レベルで考えます。研究背景では、特に気を使います。質の高い論文は、読めば読むほど、味が出てきます。英語にも類義語は多数ありますが、なぜその単語を使ったのかまで見えてきます。しっかりと書かれた論文は美しく、最初から最後まですぅ~っと頭の中に入ってきます。

(b)定量的/定性的な説明:問題があると専門分野の人しか読まない
論文は専門的な内容であるため、外部の添削者には文章の編成はできません。慣れるまでは熟練者・指導者の協力が不可欠です。科学論文では可能な限り数値を示し、なぜ変化が起きたのか定性的な説明が求められます。例えば、「温度を上げたら大きくなった」ではなく「温度を100度まで上げることで分子の運動エネルギが上昇し*、体積が膨張した。加えられた運動エネルギは…」と説明した方が読者に優しいです。定量的な説明は、他の研究者にとって再現性をとるうえで有益な情報になります。定性的な説明は、深い考察に向けた実験結果の理解を深めます。専門家にとっては当たり前のことでも、読者によっては疑問に思うこともあるかもしれません。なるべく丁寧に書きましょう。

私なりの論文の書き方を記しておきます。まず、関連論文を探しまくり、深く考察されている論文を何度も読み込みます。自分でモデルを作るか、概算でいいので数式を立てるのでもOKです。次に、論文で使われている方法・数式を用いて、定量的に評価します。計算値が物理的に妥当な範囲にあるのか、fittingがうまくあうか、simulationと比較してどうかを調べます。計算値が合わなければ、その差異はどこから出てくるのか、定性的で分かりやすい説明が必要になります。現象や実験結果に対しては"because""due to"を使って理由を入れることで具体化させていきます。図表なども使って、丁寧に説明します。うまく説明できない場合は、報告されている数式を自分で改良するか、既に報告されている他の理論値や実験値と比較します。

(c)深い考察:できていると広く知れ渡る可能性あり
(a)と(b)だけを書いた論文では、まだ観察日記の延長にすぎません。なぜそのような現象が起きたのかを自分なりに説明する必要があります。理由が本論文から言い切れない場合や自明でない場合は、必ず参考文献を付けます。論文をしっかりと書くには、かなり勉強しなくてはいけません。参考文献と数値の違いはどこから来るのかを説明し、さらに過去もしくは自分なりの理論に当てはめて議論して初めて考察です。図一つ一つの説明に理由を入れ、考察をしっかりすると、たとえletterでも参考文献は30件くらいになると思います。20件にも満たない場合は、考察が不足してないか、明瞭な説明ができているか、確認してみてください。ただし、推測だけは禁物です。長い推測を書いても自己満足なだけで、読者には何の情報も与えません。

(a)~(c)ができていれば、ある程度の論文の質は確保されるはずです。それでも自分の論文の引用件数が低いと思う場合、大御所の教授の論文と比較して何が不足しているか、もう一度確認してみてはいかがでしょうか?大御所教授と共同研究し、論文を添削してもらうのも一つです。いい勉強になると思います。質の高い論文を書いている人は、共著論文が多くても、筆頭論文は案外少ないはずです。論文は一生残るものなので、業績に焦らず、一つ一つ丁寧に仕事することをお勧めします。

(a)&(b)の練習
コイツ何しとんねん?って思った著作権フリー画像をとってきました。
1.写真の状況を日本語200文字程度で、可能な限り詳細かつ簡潔に説明してください。
2.日本語を他の人に見てもらい、読んだイメージと写真の状況が合うか確認します。
3.日本語と同程度の説明を英語で簡潔に書ければ、英語力は問題ないと思います。
時間はいくらでもかけていいです。

再検討を要する言葉の例
utilize -> use
facilitate -> cause
firstly -> first
think -> consider
made a decision -> decided
performed the development -> developed
at the present time -> at present
continue to remain -> remain
empty space -> space
mix together -> mix
never before -> never
none at all -> none
in order to -> to
datum -> data
medium -> media
be displayed by -> display
be composed of -> contain
be passed -> pass