2015/07/04

本当に研究職は稼げないのか?

はじめに
就職する際に重要視する点として、「やりがい」「給料」「安定性」など様々。全てを網羅する企業なんて、そうそうないです。では、日本の就職事情はどうなのでしょうか?

日本も中国も韓国も同じように、家族や親戚一同、大企業就職を歓迎します。それに呼応するかのように、大企業が人気です。確かに、大企業の給料は悪くはないです。しかし、日本で高い給料(一千万円以上)を稼ぐには、金融、外資系コンサル、マスコミ関係。どれも文系職です。日本の理系では、 多くの企業が年功序列制度をとっており、学部卒でも修士卒でも博士卒でも、初年度の給与に差が殆どありません(博士なんて頭の固いおいぼれは、需要すらない)。修士・博士卒の場合は、昇進が早いため、2年目から給与の上昇幅が大きくなります。それでも20代で年収1千万円稼ぐのはほぼ不可能です。 

日本の理系学生は「安定性」を重要視しているように思います。実際、旧帝大の電気系で最も人気があるのが、その時に安定そうな年功序列企業(財閥、電力、大手自動車・電機)です。 これはローリスクと言う点では間違っていません。ただ、リターンもローです。年功序列企業で、役員でもない限り、給料を数千万円にあげろというのは不可能に近いです(会社の首を絞めて、結局は自分のリストラリスクがあがるだけ)。 欧米で働く日本人は、日本を「社会主義にかなり近い資本主義国家」と見ている人も少なくありません。では、「給料」を最優先するとどうなるのでしょうか?


理系でも稼ぎたい!
「特許で稼げばいい」という人もいますが、これは結構難しいです。多くの場合、最先端研究は家庭ではできません。企業で研究を行った場合、権利は企業のものとなり、個人には入ってきません(会社から僅かな手当ては出る)。これは日本企業でも海外企業でも同じで、入社時に誓約書を書かされます。抜け穴としては、日本企業から海外の大学に派遣されて、そこで特許を申請することです。まぁ、でも、よっぽど運がないと実現しないでしょう。 

無難な方法としては、論文博士でもなんでもいいので、博士を取ってアメリカで就職することです。特に、欧米の大学院にいけば、授業料が無料どころか、学生の間も給与がもらえます。そして、その後IBMなんかに就職できれば、高給かつノーベル賞クラスの研究ができます。ただし、研究者枠は非常に狭いです(インテルでも全体で100人程度)。欧米では、工学系の技術職全般が高く評価されているので、とくにやりたい研究があるわけではないなら、開発職や事業部をステップアップしていく道もいいでしょう。同程度の給与がもらえます。

ビルゲイツですら、年収は5千万円程度しかないと聞いたことがあります。 外資企業で資産が億を超えているのは、ストックオプションのおかげ。自社株を会社から渡されます。株の価値が下がれば放棄できるし、上がれば換金できます。ノーリスクハイリターン。会社に求められる人材ほど、創業してから時間が経っていない企業ほど、多くの株がもらえます。株の価値が上がる前に入社すれば、資産が膨れ上がります(ただし、場合によっては自分のタイミングで転職できない)。

米国で、学部・修士卒でも金持ちになりたい人は、会社を作ります。上場できれば資産がいっきに膨れ上がるからです。google等の大企業では株の変動が小さいので、優秀な学生は会社を作るかベンチャー企業に就職するそうです。「新しいことをしたい」という理由で大企業から転職しますが、本当は、より多くの資産を増やしたいからとの意見もあります。 起業であれば、博士をとらなくても、日本にいても、大きく稼げる可能性があります。少なくとも、特許よりも稼げる可能性は高いです。


欧米の給与と福利厚生
アメリカの学部卒は、年収400万円程度で、修士卒で400~800万程度(企業と交渉次第)。一方で、博士卒は初年度から800~1200万円(欧は大体800万円)。大企業でもベンチャー企業でも。もちろん、その人の能力によって額が違うし、昇給額や福利厚生なども交渉次第で変わりますが、年功序列ではないので、日本のような昇給は少ないようです。一度額が決まれば大体一定になってしまうと考えた方がいいでしょう。結果的に、欧米では、博士取得を目指す学生が多くなります。修士卒の場合、30代になると、欧米より日本の方が給与が良くなる場合がでてきます

会社が欲しいと思った人ほど福利厚生が充実します(同期でも大きな差がある)。契約期間も交渉次第で、企業側もいつでも辞めさせられるし、雇用される側もいつでも転職(キャリアアップ)できるように、2週間とかもありますが、一方で、数年とかも可能です。基本的に、とんでもないヘマをしたり、採用時にウソを付いていない限り、即解雇はないです。また、博士卒なら、即マネージメント職もあります。チームリーダにつけば、自分のやりたい研究ができるし、給与もグンと上がります。 個人的には、年500万円でnormalな実力の二人を雇うより、年1000万円でeliteな一人を雇う方が、R&D部門では海外との競争に勝てそうな気がします。

米国の管理職や、ベンチャーなどで第一線で働いていれば、長時間勤務となってしまう時もありますが、大抵は9時~18時くらいで帰れます。多くの人は、趣味や家族の時間として使うようですが、独身ならその時間を起業にも使えますね。海外では副業OKの会社も多いです。

日本と比べて、欧州は祝日がかなり少ないです。一方で、欧州では、長期間のバケーションがとても取りやすく、夏やクリスマスには2~3週間くらいとるようです。欧州では年間30日程度、特にスペインでは年間50日の有給休暇があるそうです。米国は、日本と欧州の中間くらいの休日になります。


日米の給与の比較
米国の平均給与は、ずっと一定とすると下図のようになります(実際は勤務後15年くらいで飽和し、そこからほぼ一定)。また、日本での博士の給与を、修士と同様の傾斜(年功序列)で仮定しています(実際は博士卒の方が傾斜が急になると思うので、より高給になるはずです)。この状況が正しいと想定すると、日本での生涯年収は、学部卒で2億円、修士卒で2億4千万円、博士卒で2億1千万円です。米国では、学部卒で1億5千万円、修士卒で2億5千万円、博士卒で3億3千万円です。分野に大きく依存しますが、ご参考まで。

Bureau of Labor Statistics
Annual earning in US

以上をまとめると、給与は、
 博士修了の場合、「米国>欧州>アジア」
 修士修了の場合、米国~欧州~アジア」
 学部卒の場合、 アジア>欧州~米国」
という感じです。
休みは、学歴関係なく、欧州>米国~アジア」という感じです。


さいごに
35歳以上で転職するには、どこの国でもマネージメント経験が求められるので、ハードルがグンと上がります。日本企業でも、35歳までなら転職可能なので、上記を踏まえると、20代で博士をとり、海外で5年ほど稼ぎまくって、帰国するという選択肢もできます。自分の能力をうまく活用できている人は、あちこちから声がかかります。転職が多くなるかもしれないですが、「オファーがある」=「安定な人生」ではないでしょうか。人生設計は人それぞれ。探せば、「やりがい」「給料」「安定性」などで妥協しないで済む人生が見つかるかもしれません。 


マニアックな研究者も、世界では需要がある!