大学院1~2年目→博士前期課程:修士
大学院3~8年目→博士後期課程:博士
修士の間は、専門性を高める勉強に重点を置き、知識や技術を付ける段階です。博士になると、自分のアイデアで誰にも理解されていないことを研究します。数人の教授たちに「一人で研究できるようになった」と判断されると、大学から博士号が授与されます。これで、敬称がMs.やMr.からDr.になるわけです。世界基準で言うと研究者になるには博士号を取るのが必然ですが、日本では修士卒でも企業などで研究に従事することができます。一般的な博士後期課程は3~4年ですが、MITやカルテクで博士号を取るには4~6年かかります。それだけ高い要求が教授達から課せられます。
博士というのは、他の人と何が違うのでしょうか?博士は、まだ誰も知らないことを他の人よりほんの少し多く知っています。一般的に「成果」で言えばちっぽけなものに過ぎないのですが、一緒に仕事をすると博士の優秀さが分かります。同じ分野の人にとっては、彼らの知識量や技術力は驚くべきものです。たとえその専門分野がとてもちっぽけだとしても、博士は、その分野において、世界の誰よりも詳しいのです。そして、そのちっぽけな成果・知識が世界を大きく変えてしまう可能性だってあるのです。
【海外での博士号取得の流れ】
学生1年目に雇ってくれる研究室を選びます。人気の研究室ほどすぐに埋まるので、入学前に決めたいです。普通は、教授たちの予算配分から学生数が決まっているのでそんなことはないのですが、大学によっては予算が足りず、授業料を自腹で払わなくてはいけない場合もあるそうです。学生2年目に審査があります。中間発表みたいなものです。教授に言われたことをしていれば卒業可能です。他にも、予算関係の発表には参加する必要があります。予算を削られると自分の卒業に関わってくることもあるので、学生は力が入ります。
学生が教授と雇用関係(毎月20万円程度の給与+保険代+授業料を払ってもらえる)にあります。もらえる給与は9カ月分で、夏休み3カ月も取れます(もちろん研究室による、月換算で20~40万円(年間400万円程度)、スイスは50万円(年間600万円程度))。アメリカの大学では日本同様、深夜勤務や日曜出勤しています。一方、欧州は土日が休みで、平日も6時には帰り、2~3週間のバケーションがあります。
卒業は、卒業の1年ほど前に教授から打診されます。卒業式は6月に行われますが、博士の審査は12月だったり3月だったりすることもあります。基本的には、海外での博士取得の難しさ(基準)は日本で取るのと大差がありません。学術論文1本以上書いて、他の3人の教授の審査に通ればよく、5~6年で卒業できます。しかし、MITやカルテクでは土日や深夜まで働いていても6~8年くらいかかることが多いです。それだけ高いレベルの業績を卒業に求められるからです。 早く卒業できるのは、Natureなどの優れた業績がたくさん出た場合と研究室の予算に余裕がない場合くらいです。
教授の予算が削られた時は、研究室を存続できないので学生を切らざるを得ない場合があります。予算の少ない研究室に行くと、パフォーマンスの低い学生から順番に切られていき、修士すら取れない可能性があります。そういう意味では、日本よりも海外の方が学位をとるのが難しいです。しかし、大抵の日本人学生は真面目であり、大学教員も数百倍の競争を勝ち抜いた研究者なので、積極的に研究活動に参加し、教員の言われた仕事をしていれば論文が出るはずです。論文が出れば研究費をとれる可能性がグンとあがるので、卒業できないことはまずないです。
卒業の半年前くらいから就職活動を始めます。それまでにインターンにはいっておきたいです。留学生(Fビザ)は卒業の1か月前位に、就労ビザが下ります。就職には、日本と違って、大学での成績も評価されます。 教授の推薦書も大事なので、普段の面談やセミナーで積極的にアイデアをだしたり、研究室を良くする活動(journal club、プレゼン練習、メンター、cookie socialなど)を自分で提案してみましょう。ネットワーキングやコミュニケーション関連は、推薦書で高く評価される項目です。
【大学・大学院入学の流れ】
大学の選択・入学準備
学部は研究よりも知識を培う期間なので、日本のほうが充実している感じがします。授業料も日本の倍はするので、海外の学部入学は個人的にはあまりオススメしません。一方で、大学院は海外のほうが良い環境の場合が多いです(給与がもらえる、国際的なネットワークがある、語学力がつくなど)。大学の選び方はコチラ。
行きたい大学院が何件かに絞られたら、雰囲気やボスを知るために大学・研究室を直接訪問することを強くお勧めします。米国の大学訪問をする機会は以下の通りです。総じて、直接訪問するなら、7~10月位で学生や教員を捕まえられると、会う時間を比較的長くとってもらえると思います。
≪1~2月≫学生は授業や研究をしていますが、多忙というほどでもないので学生や教員に会えると思います。欧州では1月は休暇中かもしれません。
≪3月≫各大学が、新入生を対象に、ラボツアーをしてくれます。1週間ほどかけて、大学案内、研究内容、実験室紹介など。院生と飲んだり遊んだりするプログラムもあったりします。優秀な人材には、ハーバードやMITなどの有名大学に取られまいと、熱烈なオファーが来ます。海外の大学院に興味がある人は、これを利用しない手はありません。教員は出張しているかもしれません。
≪4~6月≫学生も教員も大学にいると思いますが、授業、試験、研究で結構忙しいです。卒業間際で卒論の時期にもあたります。
≪7~8月≫夏休みです。summer schoolを設けている大学が多いです。実際に実験を院生が教えてくれて、使わせてくれます。最後には、得られた成果を発表します。これは、アメリカ以外の国の学生も対象になっており、ヨーロッパ等からも訪れます。対象は、高校生・大学学部生。興味のある人は、是非、応募することをお勧めします。院生として入るよりも簡単に受け入れてくれるので、将来のためのコネができやすいかもしれません。 一方で、この時期に欧州の研究室に訪問しても、vacationで誰もいない可能性があるので要注意です。
≪9~10月≫学会やセミナーが多く、学生も教員も出張している可能性があります。院生や教員にとっては、外部でセミナーをしやすい時期でもあります。
≪11月≫学生は授業でまぁまぁ忙しいです。review(年間の成果発表期間)が多いです。
≪12月≫欧州だけでなく米国もvacation期間に入るので、学生や教授がいない可能性があります。忙しい教授からは1ヶ月近く連絡来ないこともザラにあるので、早めに連絡する方が良いです。
大学院への入学
海外では面接のようなものはありますが、特別な入学試験はありません。学部の成績とGRE、推薦書が必要になります。学部の成績は優と良を揃えたいです(トップ10の大学ならオール4を狙いたい)。GREは難しいし、母国語圏が優位ということもあり、留学生はTOEFLの方を重視した方が良いです。1回2万円するが、何回でもうけれるので、足を引っ張らない点数が出るまで何度も挑戦したいです。
入学には、推薦書が3つ必要。誰が書いたということより、何が書かれているかが重要です。強い推薦書をもらえる人(教授以上)を探しましょう。多くは、卒論の指導教官、アドバイザー、サークルの顧問など。勉強にのみ専念して成績が3.5よりも、ボランティアやサークルなどの課外活動で活躍しつつ、成績が3.5の方がもちろん評価が高いです。3回生時にインターンに参加して部長に書いてもらうのも一つです。 学部入学と違い、大学院では成績が最重要視される場合があるので、要注意。
大学サイドでは、まず、教授個人が推薦書と資料を読んで、取りたい学生を決めます。学生と研究室に雇用関係があるので、教授が持っている予算によって研究室への配属者数が決まります。たくさん研究費を持っているほど、多くの学生が受け入れられます。もし行きたい研究室がある場合は、応募する前にその教授に直接会って、予算等の都合を聞いて、応募した旨を直接その教授に伝えた方が良いです。大学側が雇う学生枠もあり、教授たちがピックアップしなかった学生の中から、成績順で決まります。ハーバードやMITに行くなら、成績枠を狙うよりも、特定の研究室に絞って、且つ日本の指導教官に推薦してもらった方が確実でしょう。
教授との面談では、「熱さ」が求められます。実際のところ、成績が3.5であろうが3.7であろうが、研究活動に大差がないことは教授たちも知っています。よっぽど優秀な場合は即採用されてすぐに研究を始めますが、多くの一般的な学生の場合は、面接時に研究への熱意を伝えましょう。ランチなどに誘われることもあるので、そのときも面接で聞けない人間的な面を見られていると思ってください。
ある学生は、専門性が皆無だったのに、どうしてもMITに行きたくて熱烈に応募した結果、教授が試しに受け入れたことがあるそうです(学生一人を雇用するのに給与を含めて1000万円近くの研究費を使うのでかなり稀な判断です)。しかし、その熱意は本物で、言われた課題以上のことを出してきて、ほかの学生にすぐに追いつき、「雇ってよかった」と教授に思わせたそうです。この学生にとっても、MITに入り、教授から強い推薦書をもらえれば、世界的な金融機関で年間数千万円稼ぐことも可能なので、さぞ良い将来を迎えたでしょう。それだけ、研究には熱意・モチベーションが大事なことを、教授たちは知っています。面接では、熱く語ってください。
【さいごに】
博士か修士かよく話題になりますが、どちらに進むかはその人のキャリアプラン次第です。分野や個人差があるので、一概に修士と博士の能力差を言葉で表現できません(どちらが優秀かという質問はナンセンスです)。工学分野で例えるならば、既製品を改良する、すでにあるアイデアを発展させていくのであれば修士の知識と技術で十分でしょうし、世界でだれも実現していないこと、未知のものに挑戦したいのであれば博士の深い専門性が必要となってくるでしょう。一般的にコストが高いにもかかわらず、博士を積極的に採用している企業は、「革新的な製品づくりに貪欲である」とも捉えられます。
かつての日本企業のように技術ベースで物を売るのであれば、学部や修士卒者を雇い、自社に最適な教育をすることが効率的でしょう。しかし、起業や米国企業のようにアイデアベースで物を売るのであれば、部署に一人は深い知識と考察力・創造力を持つものが求められ、博士の存在が貴重になってきます。博士一人の学位を与えるのに数人の博士卒者の評価が必要ともいわれており、本来、博士卒者並みの人材を企業内で育てようとするとコストに見合いません。しかし、「大学教員が博士をうまく育てられていない」、「企業が博士卒者を活かせていない」こともあるので、国や企業によって博士号の扱いに大きな理想と現実の乖離があります。
良い博士になるには、中高生時に基礎(数学、物理、化学、生物)をじっくり積んで、学部時に幅広い知識・応用先を知り、大学院で特定の分野を深く探求し、研究結果としてアウトプットする経験を身に着けるのが良いと思います。最も大事なのは「しっかりと本質を理解すること」(教科書の書いてある事は正しいのか?その数式はどこから導かれるのか?その数式は何を意味するのか?など)であり、それを培うのが優れた研究者への近道だと思います。
ノーベル賞受賞者たちのアドバイスとして「友人に恵まれた」、「実験がしたくてたまらないが、アイデアが浮かぶまで机に向かって考え続けた」などがあります。講義を受けるよりも、長い時間考えたり、論文などを読み漁って、友人と議論する方が有意義なアイデアが生まれるし、理解も深まります。これができるのが博士学生の特権だと思います。膨大なお金と時間を使うことであり、実用性を求める場所では遠回りで無駄な時間に見えるため、なかなか働きながらできることではありません。