2016/03/02

英語の勉強と博士の就職と海外留学

海外で研究していると、訪問する日本人学生を案内させて頂く機会があります。海外に興味があるものの、抱く不安も多いようです。それらの質問に対する私なりの回答を記しておきます。


・「博士まで行くと就職先が減るんですよね?」
日本ではそうです。日本の企業に就職したいなら、修士卒をお勧めします。大企業であれば結構やりたいことができるし、日本では大学や研究所に比べて給料も福利厚生も良いです。一方で、ずっと研究をするのは難しくなります。年功序列企業では、いつ開発や事業部に移動するかわかりません。企業のプロジェクトは一つ3~5年です。管理職になれば研究とは離れます。自分が何をやりたいかですね。製品開発も楽しいので。

もし日本での永年研究職が希望であれば、博士進学して理研やNTT基礎研などの研究所に務めるのがいいと思います。また、欧米であれば、企業の開発職でも修士よりも博士の方が待遇がよくなります

ノーベル賞受賞者の所属は平均3~4箇所という統計結果があります。優秀だから転職回数が増えるのか、それだけステップアップした結果として優れた成果が出せたのかはわかりません。しかし、中学→高校→学部→大学院→大学教員という一直線の道でなく、博士号に進む時点で活躍する場所が世界に広がり、大学だけでなく企業・研究所・官庁を含めた多くの可能性があることを知ってほしいです。それも「世界中の」企業・研究所・官庁です。博士課程に進んだ方は、「日本では認定されていないグローバルな資格」だと割り切って、視野を世界に向けてみましょう。就職先の数が数十倍に広がるはずです。



・「ポスドクは不安定ではないですか?」
安定性を求めるのであれば、公務員が最高であり、ポスドクは最悪だと言えます研究職は能力社会なので、安定なポストというのは、教授もしくは研究リーダーを除いてありません。研究所でも、最初の数年間は任期付きで研究能力を審査されます。助教でも、5年程度の任期の間に第一著者の論文が書けないと、その次のポストに困ります。企業でも研究職というポジションに安定性を求めるのは難しいです。

まず「安定ってなんだろうか?」というのを考えてみてはいかがでしょうか。「安定=食べていける」というのであれば、以前の日本の大企業は安定だったかもしれません。しかし、今や日本の大企業でも破たんしてしまいます。「破たんしてもすぐに転職できる=食べていける=安定」なのではないでしょうか。つまり、「自分の能力を高められる環境に置き続けることが安定」なのだと私は思います。ポスドクにせよ、大学にせよ、企業にせよ、研究所にせよ、そこで自分の思い描く研究者像として、成長していけるポジションを選ぶことが大事なのではないでしょうか?


・「現地人と全く話せなかったので、もっと英語を勉強してから海外に来たいです。」
誰も最初から上手には話せません。海外の大学に入学している日本の友人達も、1年目は英語が殆ど話せず、授業についていくのがやっとだと聞きます。「英語能力の不足」というのは、海外に行かないための言い訳になっていませんか?

英語を勉強するにしても、何の勉強をどうするのですか?TOEICや英検、TOEFLなどの成績がいくら高くても、最初は会話に直結しません。これらの勉強は海外の大学に入学するためにすべきです。英会話学校も同じです。先生を含めて皆さんが、とても聞き取りやすい発音で、完璧な文法で話してくれます。現地の人は、そんな英語を話してくれません。いくらやっても「これで海外にいける」という水準には到達できません。では、どうしたらいいのでしょうか?

TOEIC550点とか、英検2級程度の最低限の基礎ができていれば、さっさと海外に行ってしまうことです。英語が話せないから行かないのではなく、英語を話せるようになるために海外に行くのです。1年目はまず会話にならないと思いますが、コミュニケーションくらいはとれるし、友人と遊びに行くこともできます。勉強法としては、ニュースや海外ドラマを英語で見るのがいいです。最初は日本語字幕をつけても良いと思いますが、必ず音声は英語で聞いてください。友人との会話の話題にもなります。後は、友人と遊んで話まくることです。

3年目くらいになると議論できるようになるので、友人との付き合いも深くなり、研究や仕事もスムーズに進むようになります。この3年間の勉強量で、語彙力や文法などの飽和度合いが変わります。TOEIC900点以上の人であれば、CNNニュースや新聞などを見ながら友人と議論できるでしょうが、TOEIC500点くらいであれば、特定のトピックについて話す程度で飽和してくると思います。

留学中でも英語を継続して勉強していれば、5年もたつと、英語が母国語のようになってくるでしょう。海外の大学院が4~6年で、ちょうどいい機会になると思います。ただし、映画やスポーツなどの趣味関連トピックに関しては、人によって知識量が違うので、いくら英語が話せても会話に入るのは難しいです。

オススメの本:
 ・English Grammar in Use 
 ・The Official Guide to the TOEFL Test


・「海外の大学院に行った方がいいですか?行くならいつからがいいですか?」
日本の教育レベルは高く、無理に海外に行く必要はないと思います。日本の大学でも、natureなどに載せたり、ノーベル賞クラスの研究ができます。海外に行ったからといっていい成果は出ません。海外に行くメリットは、研究だけでなく文化的にも視野が広がる、ネットワークが広がることです。これらは、研究に必要なものではないですが、お金では買えない価値があります。

もし、「大学院は日本と海外のどっちがいいか」と悩んでいる方は、その間にある心の境界をまず取り外して、「何がしたいか?それをするにはどの教員に指導を受けるのがベストか?その教員がいるのは日本か海外か?」という流れで考えてみるといいのではないでしょうか?

将来海外に留学したいと思うなら、早く行くに越したことはないです。博士修了後よりも、学部卒業後が良いです。米国の学部は授業料がバカ高いですが、欧米の大学院は授業料が無料だけでなく、生活費も貰えます。一方でポスドクで行くと、年々給与が上がる分切られやすくなります。5年以上契約できません。それに、30歳を超えて家庭を持ったりすると、いろんな場所で責任が伴ってきて動きにくくなります。結果、留学中は研究と勉強だけして終わりということになりかねません。海外経験を自分の将来に活かし、その後に繋げるためにも、なるべく早い段階で留学し、いろんな人と様々な体験するのが良いと思います。

どうしても英語に自信がないなら、日本で修士修了後もいいかもしれません。専門用語も理解しているし、実験スキルもあるので、英語が多少話せなくても、研究を進めて行くことができます。修士の間に、研究室のボスと事前に会っておくと良いと思います。 

おすすめのサイト:
 ・Cetera desunt


・「親から反対されるのですが・・・」
海外に行くことも、ポスドクになることも、博士進学することすら親に反対されることがあります。「博士?ポスドク?よくわからないけど、早く就職して社会に貢献しなさい」と言われたりします。異次元の話は、どれだけ説明しても理解してもらません。納得してもらうのは至極困難でしょう。婚約者の親から「大手企業か公務員にならないと結婚させない」という無茶苦茶な話もあるようです。海外で博士とれば、ウォール街で何千万円と稼げる可能性があるのに・・・

人それぞれ立場が違うので難しいですが、まずは自分本位で良いのではないでしょうか?自分達が自立し、幸せな家庭を築けないことには、親の面倒もまともに看ることができません。やりたいことを抑えて働くと、ちょっとしたことで夫婦喧嘩になったり、いやいや親の世話をすることになり兼ねません。パートナーの協力が得られるならば、やりたいことをやれるだけやってみた方が、長い目で見て家庭円満になるかと思います。親族は別として、パートナーとはよく話し合った方がいいです。


・「研究室はどうやって選びましたか?」
学部の時は、最初に興味のあるトピックに絞りました。研究には好奇心が非常に重要な要素で、研究内容の奥深さにも、研究に対するモチベーションにも影響してきます。その次に、関連分野の世界的に著名な研究者をリストアップしています。彼らからは、人的ネットワークや設備だけでなく、研究に対する考え方や取り組み方等、学ぶことが多くあるはずです。最後に、ボスの人となりを見ておくと良いかもしれません。ボスとの相性も大事なので。

ポスドクの場合、何を大事にするかは研究者次第ですが、私は論文内容や質も重要項目に入れています。アイデア重視もいいですが、今後アカデミック職に着くならとても丁寧な論文を書くことも重要だと思います。博士課程やポスドクの間は、研究課題も常に二つ持つことを推奨します。一つは挑戦的なトピック(Natureなど)、もう一つは物理的なトピック(PRLなど)。それくらい優れた結果と自身の成長が見込める研究室を選んでいます。

留学先を選ぶ際は、最近の業績を見てください。優れた研究者なら、コンスタントに業績を残しているし、最近も良い業績が出ていれば間違いないでしょう。Nature姉妹紙ばかり出ていても、ラボの論文数が年間2~3本しかない場合は、要注意です。多数の学生が犠牲となっている可能性があり、1~2年の留学では成果が全くでない恐れがあります。著名なラボで良いテーマをもらったからといって成果はでません。成果を出せるのは、研究環境がよく、かつアナタが優秀な場合です。研究の世界は過酷な実力社会です。


・「研究課題はどうやって考えていますか?」
自分の持ち味と、研究室の持ち味を最大限発揮できる方法を、数十日かけて思案するようにしています。アイデアが浮かばない時は、最初は、研究室のメインテーマに自分の特色をつけるというのも一つです。世界をリードする研究室では、違った視点を持ち込むだけでも、世界初の結果になります。研究に取り組む前に、次の論文の背景が書けるくらい関連論文を調べつくすようにしています。

欧米で研究する際は立場に応じて対応した方がいいです。学生など、受入先に雇ってもらう場合はプロジェクトありきです。自分が何に興味を持ち、これまで何をやってきたかを話して、相手のgrantに対応した研究課題を考えます。しかし、visiting researcherの場合はお客様なので、自分から積極的に研究課題を提案しないといけません。相手の提案を待っていても、ずっと放置されるだけです。契約期間が長ければ、natureに載るようなチャレンジングなトピックをしてもいいかもしれません。アイデアを思いついたらとりあえず周囲に話してみると良いと思います。現実性が出てきます。

役に立つ研究と役に立たない研究(トクロンティヌス)


・「共同研究はどのように増やしましたか?」
学生や留学時の友達関係から増えました。特に、トップデータを出すと、共同研究先は自然と増えます。後は自主的に行ったセミナーや学会です。良い論文を書いたときも、他機関から反応があり、共同研究に繋がりました。論文出版を先を越された相手に対して、競合相手にやられたとは思わず、サンプルをくれとか、うちのサンプルも調べてくれと共同研究提案するのも一つです。人間関係も考え方次第だと思っています。


・「学生の時、どのように勉強しましたか?」
教科書をただ読むのではなく、そこから何が導けるかを意識していました。大学入試のメリットは豊富な知識量がつくことですが、デメリットは思考停止です。学部の時は、大学入試のクセで教科書に書いてある内容を覚えて満足していました。大学院になってようやく、inputだけでなくoutputまでできて、本当に理解していると思えるようになりました。教科書を読んで、どのように応用・発展させられるか、まで考えるようにしています。計算式であれば、何を仮定した条件で成り立つ式かや、物理的な意味を常に考えています。読んで理解できているつもりでも、案外そうでないことが多々あります。書いてあることを絵に描いたり、チャートを書いたりして頭を整理しています。

他の研究者と議論すると、どの程度自分が理解しているのか分かります。お互いが本質を理解していると、とても有意義な議論になって楽しいです。議論から、共同研究や新しい課題が生まれることもあります


・簡単なチェック項目
  • 修士は2年、博士は3年で必ず修了
  • 博士入学は修士卒すぐ(社会人になってからはしない)
  • 博士の学位が欲しいので、社会人博士を目指す
  • 質問をするのは授業中ではなく、授業の後
  • 教授にならないと研究室を持てない
  • 会議が日本語
  • 子供の育児は女性の仕事
  • 仕事や研究はいつも19時以降まで
  • 会議が19時以降や土日にある
  • 就職先は大手企業
  • 通勤時間が1時間以上
  • コーヒーブレイク(雑談時間)が禁止
  • 職場に子供を連れてくるのは禁止
  • お茶くみ、晩酌は女性の仕事
  • 上司・教授のグラスのビールが減ったら、すぐ注ぐ
上記の点に違和感を持たなかった方は、日本の感覚で麻痺しているので、一度長期で海外に行って、国際的感覚を養うことをお勧めします。