2016/02/24

大学教員の仕事

【はじめに】
大学の先生の話や講義はつまらない、と思っている方もいるのではないでしょうか?
出張や休みが多くていいなぁ、と思っている人もおられるのではないでしょうか?

大学教員は、主に『研究成果』で評価され、『講義の分かりやすさ』は評価されないことが多いです。また、予備校講師みたいに、分かりやすく伝える教育のプロではないです。結果、学部の講義や一般向けのアウトリーチトークが、つまらないまま改善されない場合があります。専門性の高い大学院の講義になると面白みが増してきて、集中講義とかセミナーになると非常にワクワクさせられることが多いのですが…専門性が求められない、つまり、学部の講義はピンキリです(ヨビノリとか、youtuberの方が圧倒的に分かりやすいです)。

学部の授業が分かりにくい要因は様々で、一部の優秀な層をターゲットにしている、独学を促すような講義にしたい、教員が忙しすぎて授業準備が不十分、などです。大学は、小・中学校と違って義務教育ではないので、理解が最も追いついていない学生に合わせる必要がありません。むしろ優秀な学生が退屈に感じる授業は避けるべき、と考える教員もいます。また、万人に分かりやすい講義が、学生の独学促進や理解度向上にとって良いとは限りません。講義によっては、学生が全く質問をしてこない時もあります。学生からの質問がないと、教員側は学生のレベルが把握しづらいです。

授業評価アンケートは、数十年前からとられています。最近では、米英同様、アンケート結果をフィードバックして、わかりやすい授業が求められるようになってきています。実際、教育系youtuberの中には、分かりやすいだけでなく、独学を促させるような良質の動画もあるので、大学教員達も十分に改善の余地があると思います。アンケート結果はすべて教員の間で共有されています。会議資料として配られることもあります。学生の皆さんは、積極的に質問したり、思ったことを遠慮なくアンケートに書きましょう!

大学教員の授業準備

『忙しすぎる』ことに疑問の方に、教員の仕事内容を紹介しておきます。


【最重要の仕事】
 ・授業
 ・留年や休学者のサポート
 ・入学試験の作成と採点、当日の監督
大学から給与をもらっている以上、絶対にやらなければいけない仕事です。

授業自体はいいんです。楽しいです。大変なのは、授業準備です。教科書を理解しないと、人には教えられません。問題が解けるだけでは、解き方は伝えられても、人に内容を理解させることはできません。講義科目が、自分の専門と関連しているとも限りません。その講義内容が、大学レベルなのですから、準備が大変なのは当然ですよね。たとえ限られた分野の1コマだけであっても、参考書も含めて分厚い本を何冊も読むので、授業準備だけで春休みや夏休みが完全になくなることがあります。

講義は、学生のレベルとカリキュラムに合うように、回数と時間をまとめなくてはいけません。半年で10回程度、一回90分以内で収める必要があります。ただただ、知識を詰め込んでほしい時と、内容を深く理解してほしい時では、授業スピードも大きく違います。講義出席者が100人を超えてくると、採点も大変です。小中学校によくある穴埋め問題なんて、大学の試験ではレアです。基本的に、記述・論述です。それをどの学生にもフェアになるように点数化するのです。点数の分布も、80点以上に偏りすぎないように、細かく採点基準を設けます。100人分、いや、多い時は300人分。辛い。それが、週に3コマとかあったりすると、他に何もできません。研究なんて以ての外です。

大学には入学試験で選別されているように、学生のレベルがある程度統一されているので、単に授業についていけない学生は多くなく(一部例外の講義があるが、それは教員側の問題)、休学理由として精神的なものや経済的なものが多いです。教室に入ろうとすると吐き気がする、30分以上座ると腰に激痛が走るので集中できない、奨学金が取れず生活ができない、など。勉強はできるのに、違うパラメータで大学を卒業できない可能性がある学生たちの相談にのることは、教員の大事な仕事です。ただ、どのような手を差し伸べられるかは教員だけで決められないので、大学の制度のプロである事務員とも協力して話し合います。

入試関連を大学事務がやる国もありますが、日本では大学教員が行います。試験監督は誰でもできる仕事なので、教員が最も面倒だと思う仕事の一つです(信じられないかもしれませんが、面接試験の控室にいる人も大学教員です)。公平性や立場なども考慮すると、日本では事務員が表立って行うのは難しいのかもしれませんね。


【推奨される仕事】
 ・卒論指導
 ・実験
 ・論文執筆
 ・学会発表
非常勤講師や一部の助教では必須でないこともありますが、研究活動も求められることが多数です。常に学理を深く探求し、分野を開拓しつつ、理解を更新し続けることによって、講義に深みが増します。論文の査読や学会での質疑応答を経ても、理解が深まっていきます。学生が、これらを数年以上体験していない研究室に行くと、文章執筆能力や論理性、問題解決能力に関して、薄っぺらい指導しか得られないかもしれません。学生の卒論のクオリティにも関わってくるので、教員の研究活動は重要と言えます(理解が浅い教員の講義や指導を誰が受けたい?教員にもっと自由な時間を!)。ただ、講義や入試のタスクが多すぎて、やりたくても研究活動ができていない教員もおられます。

大学教員が、主に『研究成果』で評価される理由が分かってきたのではないでしょうか?『講義のわかりやすさ』も大事ですが、それ以上に広い視野で深く物事を見れることの方が重要視されています。どんなに分かりやすくても、講義でエセ科学や根拠のない陰謀論を持論で展開されるとマズイわけです。その道で世界を牽引している人は、概して、広い視野で正しい見解を持ち合わせていて、講義内容も魅力的です。優れた研究成果を多数出していると、下記のようなマネージメント能力が必要な仕事が増えていきます。


【一部の助教と准教授以上の仕事】
 ・研究室運営
 ・修士や博士指導
 ・研究費の獲得
 ・(産学連携)
 ・(学会運営)
卓越研究員やテニュアトラックなどの独立している一部の助教と、准教授は、マネージメントの仕事が求められます。お金を自分で外部から取ってきて、そのお金で自分の研究室グループ(数人~数十人)を運営します。実験費用、TA費用、設備費用(電気工事・壁修理・ネットワーク回線・安全機器メンテナンス)、学会参加費、学生の出張旅費、論文投稿料、机や椅子の購入、などなど。大学によっては、学内からもらえる予算だけでは、印刷費用くらいで消えていきます。論文を投稿する費用すらないので、外部からの資金獲得は必須です。論文が書けないと、学生に博士を修了させることもできません。

ただ、『研究成果を出せる人≠マネージメントに秀でた人』なので、仕事の適性があっていない方もおられます。例えば、ノーベル賞は、研究で大きな成果を出した人が取る賞ですが、日本では、ノーベル賞を取ってしまうと雑用だらけの仕事になり、本来の研究能力が発揮できない仕組みになっています。この辺り、米国は、雑務が減らされたり、学内から多くの研究費がもらえたりして、もっと能力を活かせるように役割を分けられています。人間、できることは限られているし、能力も人それぞれ違うので、大学の人事も、この辺りを考慮してほしいですね。

パーマネント職では、大学運営の業務や委員も入ってきます。いわゆる雑務というやつで、多くの会議に時間を費やされます。これは、なるべく事務員で行ってほしい案件ですが、責任の所在や乏しい運営交付金により、教員がやらざるを得ない場合も多いです。米国なら間違いなく、事務員や技術職員を雇うでしょう。多額の寄付金が羨ましいです。


【教授の仕事】
 ・大学自体の運営
 ・授業カリキュラム
 ・政府の有識者会議
 ・各種審査員、人事
 ・設備などの管理責任
大きな枠組みでのマネージメント+責任者の仕事が増えます。研究が好きな人は、こういった仕事を好みません。外部からは『立派』に見える役職でも、本人達は結構辛そうに仕事していたりします。専攻長、副学長となっていくと、大学ー政府間や海外の大学との連携といった、組織同士の締結を話し合ったりします。長期的な視点での教育改革です。自分で決められる権限も増えますが、雑務が膨大で研究活動を行う時間が失われます。
 「学科長?すごい!」
 「いやいや、マジ勘弁…ラボ運営どうしよう…最新の研究を追えない…」


【さいごに】
1日30分も時間を取れない教員も多々おられます。それでも、教員の最優先の仕事は、学生の教育です。学生が育つためには、忙しくても時間を取ってくれるはずです。院生だけでなく、学部生も、教員にコンタクトを取るのを躊躇う必要はありません。積極的に、教員に勉強や生活について相談してみてください!