2015/07/26

起業の練習 ~コミュニケーション・リング~


左腕に腕時計、右腕にコミュニケーション・リング(CR)というのを流行らせたく、考えました。CRは、RFIDの技術を活かして、握手するだけで名刺交換ができればいいなと思ってました。CRの具体的な機能としては、距離に応じて機能が変わり、近距離では連絡先交換、長距離ではSUICAのような電子マネーとして使います。2種類の周波数を使えば可能なんじゃないかなと思って、試作しました。実現するには、送信回路と受信回路、そして、その制御系が必要となります。送受信は、とりあえずコイルを巻いて試作し、制御系はマイコン(PIC)で行うことを検討します。


※上記アイデアは2012年時のものでしたが、後に類似機能の指輪型製品(MITのSesame Ring、Logbar社のRing ZERO )などが発売されたことで、私たちのアイデア自体は悪くなかったな、と思いました。

【実験①】
無線送受信実現に向けて基礎回路を作ります。送信側に使うのはコルビッツ発振回路。今回は、インダクタンスを制御して低周波動作させ、受信側LEDでその動作を確認します。
【実験準備】
図1:購入部品
  • トランジスタ (123AP T-NPN, SI-AF/RF AMP) x1
  • ダイオード
  • LED
  • 抵抗 470Kx1, 100Kx1, 9.1Kx1
  • コンデンサ 910px1, 91px1,
  • リアクタンス
  • スイッチ
  • 電源
  • 磁性ワイヤ
  • 導線

合計$34.1。測定は借りてきたオシロスコープ(Tektronix )で行いました。電子部品のお店もありますが、オンラインで大量購入するのが最安。
図2:完成した回路

【実験結果】
図3:出力結果(広範囲)
振動してる?
図4:出力波形
無事、発振しているのを確認!
【考察】
やや波形が乱れているのは、インダクタンスに抵抗成分が載っているためと考えられます。また、インダクタンスは全て手巻きで行ったため、正確な値が不明です。インダクタンスの値を確認するには、TSPICEで回路シミュレーションが有効かと考えています。

【実験②】
デジタル信号を送受信するには、マイコンが必要です。マイコンはPSoCを体験したことがある程度なので、今回はマイコンの練習としてLEDの点滅を試みました。マイコンにはいろんな種類があるようで、中でも日本語の情報が多いPICを使用することにしました。
【実験準備】
    図1:LED点滅用の回路図
  • PICkit3  with アダプタ
  • ブレットボード
  • 電池+電池ケース
  • LED x1
  • 抵抗 (10k x2, 100 x1)
計$70
クローン版をe-bayで購入しましたが、動作は問題なさげ。プログラムは、MPLAB IDE 8.84とHITECH PICC Liteをインストールして、C言語で記入しました。
【回路説明】

④ピン(MCLR): リセット端子(マスターリセット入力)。0Vになるとリセットする。外部リセットを使用しない時はVssに接続。リセット信号の入力に、Pull up (R1: 数100~10kΩ)が必要。
⑤ピン(Vss): 接地。
⑦~⑬ピン(RB1~7):入出力ポート(各20mAまで、全部で100mAまで)。今回は、出力として⑩ピン(RB4)を使用。出力確認にLEDを点滅させる。LEDに電流を流しすぎると壊れるため、電流制限抵抗(R2:100~1kΩ)を直列に接続。抵抗が大きいほど消費電力(P=R2・I(led)^2)が抑えられるが、大きすぎると電流が小さくなりLEDが点灯しない(10mA以上)。V-V(led)=I(led)・R2
⑭ピン(Vdd):電源入力。
⑮ピン(OSC2/CLKOUT):発振クリスタル出力。発振周波数の4分の1が出力される。PICでは4クロックが1命令サイクル。
⑯ピン(OSC1/CLKIN):発振クリスタル入力、外部クロック入力。16F84Aでは、外部クロックとして、水晶振動子やセラミック振動子(セラロック、Ceramic resonator:4~20MHz)が必要(16F648、628では不要)。しかし、今回近くのショップにこれらの振動子が売っていなかったので、RC発振を用いた。R3(5k~100kΩ)は大きいほどリーク電流の影響を受け、小さいほど発振が不安定になる。C1(20pF以上)は、小さいほど入力容量の影響を受けて周波数がばらつくが、なくても浮遊容量で発振可能(詳細は日本語データシートP40参照)。周波数f=1/(RC)
図2:完成図
図2のように、とりあえず点灯しました。
【考察】

所望の周波数が得られておらず、点滅とまではいっていません。現在、プログラムと回路(R3とC1)の両方を改良中です。

【感想】
回路やプログラミングだけでなく、RFIDに必要な高周波や無線の知識も必要となり、段々2人で実現するには厳しい状況になってきました。また、工程が複雑になるにつれて、資金面でも苦しくなってきました。所望の品を実現するためには、資本提供先も必要となってきました。アイデア段階では考えていなかった事ですが、これらは良くあることだと思います。

特に資金に関しては、投資家の興味と自分のやりたいことが一致しなくてはなりません。長期間かけて製品を向上させていきたいのか、アイデアを形にしてすぐに大企業に会社と特許を売りたいのとでは、投資家から見る目も大きく異なります。ITとは異なり、形にするまで長期間を有する製造業の難しさがココにはあります。本気で起業する際には、念頭に入れておきたいと思います。

物を作るよりも(最近では3Dプリンタが普及し、パッケージも含めて更に低価格で物が作れる)、測定機器の方で高くつくことが分かりました。なるべく、普段から幅広いネットワークを構築し、大学などで測定機器を借りるのが良さそうです。量産化する際も、人脈が重要となり、中国などの工場に知り合いがいると比較的容易です。量産化可能かどうかも投資家には重要らしいです。製造、品質管理、営業、量産化などといった製品化の流れを知るためにも、起業する前に、一度企業で働いて、人脈と経験を積むのも一つの選択だと感じました。

最初はアイデアを出して、どのようなシステムが必要か具体案を出し、それから試作に入っています。考えすぎる前に、とりあえず作ってみよう、という感じです。試作がうまく行けば、より複雑な工程に進みます。Step-by-stepで、最初は見た目が不細工でも、機能を達成させられたらいいわけです。そのためには、主要部以外の場所で、レゴ マインドストーム のような比較的低価格の既製品を利用することもアリだと思っています。